SUICAのメモ。
Contents
- 1 JR東日本グループ経営ビジョン「変革2027」
- 2 自律分散型 IC 乗車券システム “Suica”の開発と導入(通信ソサイエティマガジンNo53夏号2020)
- 3 【2023年版】Suica対応スマートウォッチのおすすめ9選。高性能なモデルもご紹介(2023/9/15)
- 4 JR東日本、Suica経済圏を再構築 鉄道持つIT企業へ ビッグBiz解剖㊤(2023/4/25)
- 5 JR東日本に聞く、Suicaを基盤にした「ポイント生活圏」の成長戦略とは?(2022/3/8)
- 6 キャッシュレス化をけん引するSuicaの可能性 貨幣のゆくえ③(2022/1/27)
- 7 SuicaのIDを活用した新たなビジネスモデルの創出(2021/2/1)
- 8 Suica決済の基礎知識。手数料やメリット、導入方法を解説(2020/8/31時点の情報)
- 9 駅から始まるライフスタイル革命 「Suica」のつなげていく力(2019年7月)
- 10 Suicaが世界を変える--新しい社会インフラ創造への挑戦--(2010/10/29)
- 11 JR東日本はなぜ、ITインフラ・サービスへの投資に熱心なのか(2008/1/7)
- 12 神尾 寿の新ビジネス・モデル研究(4):Suica/PASMOで拡大・活性化するレールサイド・ビジネス(2007/3/28)
JR東日本グループ経営ビジョン「変革2027」
自律分散型 IC 乗車券システム “Suica”の開発と導入(通信ソサイエティマガジンNo53夏号2020)
【2023年版】Suica対応スマートウォッチのおすすめ9選。高性能なモデルもご紹介(2023/9/15)
スマートフォンと連携することで、通知の確認やエクササイズのデータ管理などができ、幅広く活躍する「スマートウォッチ」。Suicaに対応したモデルはキャッシュレスでの決済ができるため、より利便性が高いのが特徴です。
そこで今回は、Suica対応スマートウォッチのおすすめをご紹介。メリットや注意点についても説明しているので、あわせてチェックしてみてください。
JR東日本、Suica経済圏を再構築 鉄道持つIT企業へ
ビッグBiz解剖㊤(2023/4/25)
JR東日本が1987年の民営化以来、最大の岐路に立たされている。新型コロナウイルス禍で都心の在来線と商業施設の相互送客で稼ぐ経営モデルが行き詰まり、客足はコロナ前に戻らない。首都圏の人口も減少に転じ、手を打たなければじり貧が避けられない中、鉄道一本足からの脱却に向けて組織、働き方、事業すべてを刷新する改革が始まった。
今年5月、JR東の成長戦略のバックボーンとなる動きが北東北3県でスタートする。…
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JR東日本に聞く、Suicaを基盤にした「ポイント生活圏」の成長戦略とは?(2022/3/8)
JR東日本(東日本旅客鉄道)のポイントサービスである「JRE POINT」が着実に進化し続けている。「駅ビルポイント」や「Suicaポイント」、「えきねっとポイント」などとの共通化が進み、2021年6月にはポイント統合が完了した。輸送サービスと生活サービスとITサービスを掛け合わせることで新たな価値を創造し、「JRE POINT」をベースとした生活圏の構築を進めているのだ。これまでの「JRE POINT」の道のりと今後の戦略について、東日本旅客鉄道 MaaS・Suica推進本部決済事業部門長の今田幸宏氏に話を聞いた。提供ポイントサービスの統合、難しかった点とは
もともとJR東日本では、サービスや駅ビルごとに24種類のポイントサービスを持っていました。1つの企業としてはあり得ないような数ですが、駅ビルごとの生い立ちの違いもあり、「アトレ」や「グランデュオ」など、駅ビルのブランドごとのカードが存在しているという状況でした。これらのサービスを統合していこうということから、新たにポイントサービス「JRE POINT」が誕生しました。
「JRE POINT」への統合は、大きく分けて3段階となります。まず第1段階として2016年2月に「JRE POINT会員カード」をスタートし、「駅ビルポイント」との共通化を進めました。
第2段階では2017年12月から「Suicaポイント」、2018年6月からJR東日本グループのクレジットカード「ビューカード」で貯まる「ビューサンクスポイント」との共通化を進め、第3段階として2021年6月に新幹線や特急列車の指定券予約などができるネットサービス「えきねっと」で貯まる「えきねっとポイント」との共通化を行い、当初から計画していたポイント統合が完了しました。
(出典:東日本旅客鉄道)第1段階の「駅ビルポイント」の共通化は、多くの課題を解消しながらの作業となりました。「駅ビルポイント」はそれぞれ長い歴史があり、各駅ビルからすれば会員カードに紐づくお客さまは「自分たちのお客さま」という意識が強くありました。そのため、「JRE POINTマーク」は共通しているものの、共通化にあたって発行されたカードは駅ビルによって色の違うものになりました。
それまではその駅ビルで使えるカードが1種類しかなかったのが、いきなり対応しなければならないカードの種類が増えたわけで、駅ビルテナントの店員のみなさんにご苦労をかけた部分もあったと思います。そこで統合されたカードの一覧を各駅ビルの社員に配布する、といった対応を取りました。
第3段階の「えきねっとポイント」との共通化を実現することで、鉄道会社として会員のみなさんが最も望んでいたサービスの提供にたどりつけたと考えています。ただしまだ課題はたくさんある状態です。「JRE POINT」「えきねっと」はそれぞれ会員になっていただかなければならないほか、最終的には「Suica」との紐づけをしていただかなければいけないという点が課題だと考えています。
さらなる会員拡大に向けた課題とは?
下の表では「JRE POINT会員」は約1248万人とありますが、2022年1月末の時点で約1257万人の方が登録しています。「ビューカード」は約550万人前後、「Suica」は無記名式もあるため、正確な登録者の人数は把握できませんが、発行枚数は8900万枚です。
(出典:東日本旅客鉄道)「Suica」「ポイントカード」「ビューカード」といった複数の媒体を「JRE POINT」の口座に紐づけることによって、JR東日本グループのサービスをトータルで利用することが可能になります。そのためにはそれぞれの会員をキーとなる「Suica」に紐づけていく必要があります。また、目指しているのは「Suicaカード」の会員から「モバイル会員」への移行です。
「Suica」はプリペイド型のサービスであるため、チャージをしなければ、電車にも乗れないし買い物もできません。エキナカATMや大手コンビニATMなど、チャージ拠点は増えていますが、「モバイルSuica」であれば、必要な時に必要なだけ入金することが可能になります。このメリットが大きいと考えています。
いかに「モバイルSuica」への移行を促進するかが、最大の課題と言っても良いでしょう。そのため、「モバイルSuica」を使用すると、「Suicaカード」の4倍のポイントが付与されるなど、ポイントサービスを活用しながら、「モバイルSuica」へのシフトを目指しています。
キャッシュレス化をけん引するSuicaの可能性 貨幣のゆくえ③(2022/1/27)
2001年11月18日にJR東日本が導入した「Suica」は、昨年20周年を迎えた。この非接触ICカードは鉄道の乗車券として始まり、店舗での決済が可能な電子マネーサービスを導入するなど、キャッシュレス化の立役者だといえる。これまでの歴史、これからの可能性を担当者に聞いた。
2001年の誕生以降進化を続けるSuica
2021年には、発行枚数が8800万枚を突破したSuica。JR東日本のチケットレス・キャッシュレス化の歩みは、Suicaを抜きにして語ることはできない。
切符と定期券をICカード化したSuicaが発行されたのは01年のこと。続いて03年にはクレジットカードと一体型の「ビュー・スイカ」カードが登場し、04年には当時黎明(れいめい)期にあった電子マネーサービスも始めた。MaaS・Suica推進本部の松本憲副課長は、「この時期に電子マネー事業を始めていたからこそ、今日の急激なキャッシュレス化社会においてビジネスチャンスをつかむことができた」と語る。
06年には「モバイルSuica」のサービスがスタート。またこの頃、他の鉄道事業者でも交通系ICカードの導入が進んだため、事業者間での相互利用を積極的に進め、07年にはPASMOとの相互利用、13年には全国の10のICカードでの相互利用サービスも実現した。
さらにその後も、「タッチでGo!新幹線」(18年)や「新幹線eチケット」(20年)により、新幹線でも、Suicaを自動改札機にタッチするだけで乗車できる環境を整えていった。松本 憲
JR東日本 MaaS・Suica推進本部 Suica共通基盤部門
戦略統括グループ 副課長モバイル化やポイント共通化によるさらなる進化
こうしたSuicaの歩みの中で、「04年の電子マネーサービスの開始とともに、06年から開始したモバイルSuicaも、その後のSuicaの発展に大きな影響をもたらしました」と松本副課長は語る。
モバイルSuicaにより、チャージや定期券の購入を、駅に行くことなく手持ちの携帯電話で行うことが可能になり、利用者の利便性が大きく向上。また事業者側にとっても券売機の削減など、効率的な事業運営に結び付けることができた。
「モバイルSuicaをご利用されているお客さまは、カード型のSuicaをお持ちの方と比べて、電子マネーのご利用回数が多いという傾向にあり、電子マネー事業の拡大にも寄与しています」(松本副課長)
さらに近年では他の事業者とも連携し、「Apple Pay(Apple Payは、米国およびその他の国で登録されたApple Inc.の商標です)」や「Google Pay」「楽天ペイ」などのアプリからSuicaを発行し、利用できるサービスを開始。特に「Apple Pay」との連携は、モバイルSuica利用者の飛躍的な拡大につながったという。
また松本副課長は、「Suicaは、『JRE POINT』と掛け合わせることで、グループ全体の新たな価値創造にも貢献しています」と語る。JR東日本グループの共通ポイント「JRE POINT」
従来JR東日本では、グループ内に複数のポイントプログラムが存在していた。そこで16年に共通ポイントプログラムとして「JRE POINT」をスタートさせ、駅ビルのポイントを順次統合。続いてSuicaやクレジットカードのポイントを統合。19年にはSuicaを使って鉄道を利用した際にポイントが貯まるサービスを開始し、さらに21年には新幹線や特急列車などのインターネット予約サービス「えきねっと」のポイントも統合したことで、グループ内で幅広く利用できるポイントプログラムとなった。
これによりグループ内での相互送客の促進が期待できるとともに、ポイントを活用したキャンペーンなど、グループ全体でのマーケティングも可能となった。人々の日常にもっとSuicaを
昨年春にJR東日本では、新たに「地域連携ICカード」をスタートさせた。
地方のバスなどの交通事業者の中には、金銭的な負担が大きいことから、交通系ICカードの導入を見送っているケースも少なくない。この課題に対し、Suicaの機能に加えて、交通事業者ごとの割引や福祉ポイントといった独自サービスも提供可能としたのが地域連携ICカードだ。地域連携ICカード
岩手県交通の「Iwate Green Pass」(写真左 21年3月27日開始)と宇都宮エリアの「totra」(写真右 21年3月21日開始)システムやカードの開発はJR東日本が行い、導入事業者間で開発コストをシェアするビジネスモデルとしているため、事業者にとっては従来よりも安価にICカードの導入が可能となった。21年には宇都宮エリアと盛岡エリアの路線バスで導入され、今後も東北や北関東を中心に拡大が進む。加えて同社では23年春以降青森・盛岡・秋田の各エリア44駅にSuicaを導入する予定だ。
「当社としては、地域の様々な課題解決のお役に立ちたいと考えており、Suicaで人々の日常をもっと豊かに、便利にしていきます」(松本副課長)「タッチ&ゴー」をさらに多くのシーンで
さらにJR東日本では21年9月より、お台場レインボーバスを運行する「株式会社kmモビリティサービス」の協力を得て、NFCタグを活用したバス乗車サービスを行っている。NFCタグとは、ICチップが内蔵されたシールやカード状の媒体のことで、NFCリーダーモード対応のスマートフォンをNFCタグにタッチすれば、キャッシュレス決済などのさまざまなサービスに利用できるというものだ。今回の実証実験では、利用者は「Ringo Pass」(※)アプリをあらかじめダウンロードし、アプリで乗車人数を選択した上で、「タッチする」ボタンをタップすれば、NFCリーダーモードが起動する仕組みになっている。このプロジェクトを担当する同本部の柴田聡さんは、次のように語る。
※ JR東日本と株式会社日立製作所が共同で進めるMaaS(Mobility as a Service)のアプリサービス。Suicaでシェアサイクルを利用できる他、タクシーの配車・支払いが可能
柴田 聡
JR東日本 MaaS・Suica推進本部 Suica共通基盤部門
企画グループ「設備としては、路線バスであればNFCタグを運賃箱の上部などに貼ればいいだけなので、スペースも取らず、費用も低く抑えられます。今後も改良を重ね、多くの交通事業者に導入していただけるものにしていきたいと考えています」
今回の実証実験では、支払手段としてクレジットカード決済を採用したが、今後は「Ringo Pass」アプリでモバイルSuicaのチャージ残高からの決済を可能にすることで、Suicaが使える環境を整備していく予定だ。JR東日本では今後もさまざまな決済をSuicaと連動させることで、人々の生活をさらに便利なものにしていくという構想を描いている。「Ringo Pass」アプリとNFCタグがあれば、大掛かりな装置を使わなくても便利な決済手段として活用できる(お台場レインボーバスでの決済の様子)
アプリで「大人」「こども」それぞれの乗車人数をあらかじめ選択することで、スムーズな運賃の決済が可能とな
SuicaのIDを活用した新たなビジネスモデルの創出(2021/2/1)
Suicaを活用した新たなスマートビル入退館システムの実証実験を開始
JR東日本の子会社でベンチャーへの出資や協業を推進するCVCのJR東日本スタートアップ株式会社
(以下、JR東日本スタートアップ 代表取締役社長:柴田 裕)と、Akerunブランドのクラウド型IoTサービスを手がける株式会社Photosynth(以下、フォトシンス 代表取締役社長:河瀬 航大)は、2月1日(月)より、Suicaを活用した新たなスマートビル入退館システムの実証実験を開始します。今回、SuicaのIDを活用して事前インターネット受付によるビル入退館や駅業務施設の入退館を可能にすることで新しいSuicaの活用方法を創出します。当該の取り組みは、JR東日本メカトロニクス株式会社(以下、JR東日本メカトロニクス)の協力を得て実施いたします。JR 東日本グループは、この実験を踏まえ、SuicaのIDを活用した新たなサービスを実現していきます。また、フォトシンスは、アクセス認証基盤「Akerun Access Intelligence」をスマートビル入退館システムの認証基盤として活用することで、Suicaの新たな活用方法の創出に貢献するとともに、“キーレス社会”の実現に向けた取り組みを今後も推進します。
【実施概要】
■実験日:2月1日(月)~3月末日まで
■場所:JR東日本本社ビル受付
■内容:
JR東日本本社ビルの受付で、訪問者(ゲスト)は、事前の発行者(ホスト)からのメールにSuicaのIDを入力していただくことで、来館当日に受付に立ち寄ることなく入館することが可能となります。また、一度登録していただいたSuicaは次回以降、発行者(ホスト)に招待してもらうだけでスムーズに入館することが可能になります。今回の実証実験では、JR東日本社員を対象とし、支社などで働く社員の本社来訪シーンにおけるビル入退館の体験向上を検証します。【Suicaを活用した新たなスマートビル入退館の流れ】
※写真はイメージです。
【JR東日本スタートアッププログラム】とは
ベンチャー企業や様々なアイディアを有する方々から、駅や鉄道、グループ事業の経営資源や情報資産を活用したビジネス・サービスの提案を募り、ブラッシュアップを経て実現していくプログラムです。2017年度に初めて開催し、今回までに合計81件の提案を採択。鉄道事業やIT事業など幅広い分野の実証実験を行い、一部の取り組みは実用化にいたりました。なお、内閣府主催の2018年度第1回オープンイノベーション大賞において、経済産業大臣賞を受賞しました。■各社概要
JR東日本スタートアップ
所在地 : 東京都港区高輪2-21-42 Tokyo Yard Building
代表者 : 代表取締役社長 柴田 裕
設立 : 2018年2月
事業内容 : 事業シーズや先端技術の調査・発掘、ベンチャー企業への出資及びJR東日本グループとの協業推進
URL : https://jrestartup.co.jp/Photosynth(フォトシンス)
所在地 : 東京都港区芝5-29-11 G-BASE田町15階
代表者 : 代表取締役社長 河瀬 航大
設立 : 2014年9月1日
事業内容 : 「Akerun入退室管理システム」をはじめとしたAkerunブランドのクラウド型IoTサービスを提供。
URL : https://photosynth.co.jp/
Suica決済の基礎知識。手数料やメリット、導入方法を解説(2020/8/31時点の情報)
いまや当たり前のように駅の改札口でかざす交通系ICカード。前もって現金をチャージしておけば乗車券として使えるのはもちろんのこと、最近ではコンビニやレストラン、カフェなどでも使えることから、お財布代わりに利用する人も増えています。数多くある電子マネーのうち、JR東日本が発行するSuicaが最も認知率と利用率が高いという調査結果も出ていることもあり、「Suicaでも払えますか?」などと聞かれる頻度が増えた、と実感する店舗オーナーも多いかもしれません。一方で、「導入はしたいけど、どのサービスを利用すればいいかわからない」「手数料が高そう……」といった声も少なくありません。
参考:生活者に選ばれている電子マネーとは?利用実態を調査(市場調査メディアホノテby Macromill)
この記事ではSuicaに焦点を当てて、導入のメリットや導入方法、手数料などについて触れながら、導入にまつわる疑問点を解消していきます。
交通系のなかでも、利用エリアが広いSuica
交通系ICと一口に言っても、種類はJR東日本のSuica、JR西日本のICOCAなど、全国で相互利用できるものが全部で10種類、特定の地域のみで使えるものが40種類近く存在します。
参考:交通系ICカード「導入費用」は半端じゃない (2018年3月24日、東洋経済)
なかでも普及率が高いのは、発行枚数が2021年12月時点で8,500万枚を超えているJR東日本の「Suica」です。スマートフォンにアプリをインストールして利用する「モバイルSuica」も発行枚数は1,400万枚を超えており、「Suica」ブランドが交通系ICとして多くの人に利用されていることがわかります。首都圏エリアではちろんのこと、仙台、新潟、北海道、東海、西日本、北九州、沖縄の鉄道やバスでの利用が可能。2021年3月時点では、全国で約112万店舗がSuicaに対応しています。2019年3月時点の利用店舗数が61万であったことから、着々と利用可能店舗が増えていることが伺えます。
参考:
・利用可能エリア(JR東日本)
・2021ファクトシート(JR東日本)最近では券売機にわざわざ行かなくてもスマートフォンからいつでもチャージができる「モバイルSuica」の誕生に続いて、Apple PayやGoogle PayでもSuicaが利用できるようになり、利便性は高まる一方です。
加えて、JR東日本とソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ、JR東日本メカトロニクスは、特定の地域でしか使えないICカードとSuicaを一つのカードにまとめた「地域連携ICカード」の提供が開始されるなど、Suicaのますますの普及が予想されます。
参考:
・IT・Suica事業(JR 東日本)
・Suica 機能を持つ地域連携 IC カードのサービスが広がります!(JR東日本)お店がSuica決済を導入するメリット
会計時間が早まり、混雑解消
ある調査では現金決済にかかる時間は28秒、という結果が出ています。一方でSuicaの処理時間は、ICカードからでもスマートフォンからでも0.2秒。
お客様が財布から小銭を取り出すのを待ったり、お客様にお釣りを返したりしているうちに、レジに長い行列が……という場面には身に覚えがあるかもしれません。Suicaに対応すると会計時間がぐっと縮まり、お客様を長いことお待たせすることなく決済ができるでしょう。
参考:
・決済速度に関する実証実験結果(2019年8月28日、株式会社ジェーシービー)
・乗る・買う・話すが一つになった「モバイルSuica」の誕生まで(JR東日本)
・7pay終了で沸き起こる「Suica最強説」は本当なのか(マネー現代、2019年8月11日)幅広い客層を狙える
キャッシュレスを好む層に向けて、クレジットカード決済の導入は効果的だといえます。しかし、クレジットカードには審査があり、年齢などの理由で所有できない場合もあります。クレジットカード決済の導入に合わせて、券売機や窓口から手軽に手に入れられるSuicaに対応しておくと、クレジットカードを持たない層も囲いこむことができるでしょう。
Suica決済を導入する方法
Suicaを導入する方法は大きく三つに分かれます。選ぶ際には以下のうち、どれを希望するかを明確にしておくと適切なサービスが見つけやすくなるでしょう。
(1) Suica決済のみ(※)
(2) Suica決済+その他電子マネー決済
(3) Suica決済+その他電子マネー決済+クレジットカード決済※「交通系ICカードの全国相互利用サービス」に伴い、Suica決済に対応すると、Kitaca、PASMO、manaca、TOICA、ICOCA、はやかけん、nimoca、SUGOCA(PiTaPaは除く)での電子マネー決済も受け付けられるようになります。
(1)の場合:JR東日本が提携している代理店に申し込む
Suicaでの決済のみ受け付けたい場合は、JR東日本が提携している代理店と直接契約を結び加盟店になるという方法があります。なかには「Suicaの導入をお考えの飲食店のみ受け付けます」「Suicaの導入をお考えの飲食店や社員食堂などのみお受けいたします」など、条件を提示している代理店もあるので、事業に合う代理店をSuica電子マネー決済導入に関するお問い合わせ先(JR東日本)から探しましょう。
導入における特徴は以下の表からご確認ください。
(2)の場合:マルチ電子マネー決済端末を導入する
電子マネーにはSuicaのほかにもQUICPayやiD、nanacoやWAONなど、さまざまな種類が存在します。人によって普段使う電子マネーも異なるため、必ずしもお客様がSuicaなどの交通系ICを希望するとは限りません。あらゆる電子マネーに柔軟に対応したい場合は、一つの端末で複数の電子マネーに対応できるマルチ電子マネー決済端末がおすすめです。
マルチ電子マネー決済端末を提供しているサービスには「KAZAPi(かざっぴ)」や「ヤマトフィナンシャル株式会社」などが挙げられます。ヤマトフィナンシャルに関しては、「イベント時だけ、小銭をなくして電子マネーに対応したい」という事業主に向けてレンタル端末を提供しており、臨時的に導入したいというニーズに応えてくれます。
参考:
・KAZAPi加盟店募集(株式会社アイタウン)
・電子マネー端末レンタルサービス(ヤマトフィナンシャル株式会社)(3)の場合:モバイル決済を導入する
膨大なコストを割かずに導入できることから小規模事業者から近年注目を浴びているのが、モバイル決済です。電子マネーでの決済に加えて、クレジットカード決済、QRコード決済、サービスによってはタッチ決済にも一台で対応できる点が特徴です。すべてに対応したモバイル決済端末といえばSquareなどが例に挙げられるでしょう。
端末さえ手に入れれば、あとは手持ちのスマートフォンやタブレットなどのモバイル端末とBluetooth接続するだけで、決済が受け付けられるようになります。
Suica決済の手数料
電子マネー決済を検討するうえで、まず知っておきたい情報といえば決済にかかる手数料でしょう。
従来では、業種の規模や業態などにより決済手数料は異なるものでした。たとえばコンビニなど決済頻度が高い業種であれば1%から2%程度で決済を受け付けられるものの、決済頻度がそれと比べて少ない小規模の店舗では、4%から7%ほどの手数料がかかるとされていました。
しかしながら、近年では業種を問わず、決済手数料を一律3%台とするキャッシュレス決済サービスが増えています。Suicaを含む電子マネー決済も同じように、3%から4%ほどが手数料の相場とされています。たとえばSquareなら交通系ICにかかる決済手数料は3.25%です。
Suica決済は、低コストなマルチプレーヤーのSquareで
Suica決済はもちろん、そのほかのキャッシュレス決済にもまるっと対応できたらうれしいと考える人におすすめなのは、Squareです。
Squareであれば、
- Suica決済を含む電子マネー決済
- タッチ決済を含むクレジットカード決済
- QRコード決済
のすべてに対応が可能です。そのほかにも「運営コストをおさえたい」「入金サイクルが心配」「すぐにでも導入したい」と思う人にはうれしいメリットがいくつかあります。
※Squareが扱う電子マネーは、Suica、PASMO、Kitaca、TOICA、manaca、ICOCA、SUGOCA、nimoca、はやかけんを含む交通系IC、QUICPayとiDです。QRコード決済はPayPayです。
決済手数料は3%台
Suicaを含む交通系ICの決済手数料は、3.25%。
Visa、Mastercard、American Express、JCB、Diners Club、Discoverカード、QRコード決済のPayPay、QUICPayも3.25%の手数料で決済を受け付けることができます。また、iDは3.75%です。
※Squareの料金体系はこちらからもご確認いただけます。
最短3日で導入が可能
Suica決済を実店舗で取り扱うための第一ステップは、審査の申し込みです。通常、審査には1週間から1カ月ほどかかるものの、Squareであれば審査にかかるのは最短で3営業日。申し込みからたったの数日でSuica対応店舗に生まれ変わることができます。
電子マネーに申し込むための手順は、こちらからご確認ください。
初期費用は端末台のみ。月額費用はなし
導入に必要なのは端末代金と決済ごとにかかる手数料のみ。端末は予算やビジネスの規模にあわせて、以下の3種類から選ぶことができます。
(1) Square リーダー(写真右)
(2) Square ターミナル(写真中央)
(3) Square スタンド(写真左)月額利用料金はゼロ。維持費がかさむ心配なしに、Suicaでの電子マネー決済を受け付けることができます。
売上額は最短翌営業日入金
キャッシュレス決済の入金サイクルは月1回程度のサービスが多く、資金繰りを心配してなかなか踏み込めずにいる事業主も少なくないかもしれません。Squareであれば、Suicaを含むキャッシュレス決済で受け付けた売上代金が最短翌営業日に振り込まれます(※)。振込申請など、特別な手続きを行う必要はありません。
※三井住友銀行・みずほ銀行をご登録の場合:0:00 から23:59 までの決済分が、決済日の翌営業日に振り込まれます。
三井住友銀行とみずほ銀行以外の金融機関口座をご登録の場合:毎週水曜日で締め、同じ週の金曜日に合算で振り込まれますSuicaの利用エリアや店舗数が年々増え続けるなか、Suica決済の需要は今後も高まることが予想されます。この記事では、その需要に対応できるよう、Suica決済を実店舗に導入する手段を見ていきました。なかにはSuica単体で導入できるサービスもあれば、たったの一台でクレジットカード決済からSuicaを含む電子マネー決済、QRコード決済に対応できるサービスもあることがわかりました。意外なことに、後者のほうが単体で導入するよりも、コストが抑えられることも明らかになりました。
キャッシュレス決済を好む層をしっかりと囲うためにも、Suica決済を検討している場合は、思い切って実店舗をキャッシュレス対応にしてみるのも良案かもしれません。
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Squareのブログでは、起業したい、自分のビジネスをさらに発展させたい、と考える人に向けて情報を発信しています。お届けするのは集客に使えるアイデア、資金運用や税金の知識、最新のキャッシュレス事情など。また、Square加盟店の取材記事では、日々経営に向き合う人たちの試行錯誤の様子や、乗り越えてきた壁を垣間見ることができます。Squareブログ編集チームでは、記事を通してビジネスの立ち上げから日々の運営、成長をサポートします。
執筆は2020年8月31日時点の情報を参照しています。2023年6月27日に記事の一部情報を更新しました。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash
駅から始まるライフスタイル革命 「Suica」のつなげていく力(2019年7月)
鉄道事業に初めてICカード技術を持ち込み、カード型乗車券を生活インフラの切り札に変身させたJR東日本の「Suica」──生みの親のプロジェクトリーダーは「人」と「心」を重んじ「もの好き」を身上とする、こだわりの人である。
「Suica」誕生の陰に民営化後の意識改革あり
渡部 椎橋さんは「Suica(スイカ)」の開発によって、乗車券だけでなく電子マネー(※1)としても使えるという前例のないビジネスモデルを構築されました。そもそもプロジェクトの発端はどんな様子だったのですか。
椎橋 開発の前段からお話しすると、私は国鉄の分割民営化がなければ「Suica」は誕生しなかったと考えています。1987年4月に官から民へ移り、ものの見方がひっくり返りました。その象徴が利益や予算に関する考え方です。また以前は、一人称で始まる言葉が少なく、私が、私たちが何々をするという発想がありませんでした。民営化後は「私が変われば会社が変わる」を合言葉に、改革の機運が沸き上がり、経営層も含めて意識が激変した感があります。
渡部 そうした会社環境の変化につれて、鉄道事業のハード面だけでなく、顧客サービスなどのソフト面の充実を図る素地が整っていったのでしょう。当時の椎橋さんはJR東日本で先端的な技術開発を一手に引き受けるお立場でしたが……。
椎橋 もともと、JR総研(旧鉄道技術研究所)で鉄道事業へのICカードの応用がすでに検討されていたのですが、民営化を機にJR東日本が研究を引き受けました。私は90年代半ばには「非接触式ICカード乗車券」の原型をこしらえていました。改札機にタッチするだけで通れるのでお客様に便利だし、技術的な課題もほぼクリアできていました。
また、JR東日本は91年から磁気式プリペイド乗車券(※2)の「イオカード」を導入していて、運用10年後に大がかりな設備更新の時期を迎えることになっていました。そのタイミングで磁気カードからICカードへ一気に切り替えたいと思い、私は思い切って経営層に提案しました。以前なら一笑に付されたかもしれないが、民営化後に吹いた進取の風にも後押しされ、ゴーサインが出ました。
渡部 マインドセットが根本から変わったのでしょうね。自分の仕事のことは自分で考えて決めていい。ただし、自分の生業は自分で成り立たせないといけないと。
椎橋 その思いは強かったです。社員たちが誰彼となく、技術屋にも営業経験は必要だからと、駅ナカにテーブルを並べてJR各社で共通で使える「オレンジカード」の販売をやりました。そういう現場を踏んで得たカルチャーショックが、一人ひとりの気持ちをうまく切り替えさせたと思います。技術のブレークスルーとオープン化戦略が奏功
渡部 そして2001年に「Suica」を実践投入。JRの改札口をスイスイ通れるようになって感心し、磁気カードから一夜にしてICカードに切り替わったことに驚嘆した記憶があります。
椎橋 私の立場で一番大変だったのは、ICカードをタッチするだけで通れる自動改札機に置き換えた後も、従来通りの磁気カードでも通れる機能を保つことでした。磁気カードを使われるお客様にもご不便はかけられませんので、ICと磁気を両立させる設備仕様が求められ、二重の投資も必要になりました。
渡部 磁気式のまま更新という現状維持案もある中で、あえて費用負担と技術的課題の大きい「Suica」案に挑む決断が下されたのですね。
椎橋 とはいえ、投資対効果を踏まえずに決裁は仰げませんから試算表をつくって説得材料にしました。私の計算では、現状維持案の投資額は約330億円、「Suica」導入案では約460億円。差額の約130億円は改札機の摩耗部品の寿命延長などによる経費節減で、運用後10年で回収可能と出たのです。このビジネスモデルを決定づける役員フリーディスカッションで「Suica」の将来像を3つの同心円の広がりで表し、中心円の鉄道事業をやりたいと提案し、「やっていい」と返された時は、さすがに背筋がゾクッとしました。
渡部 その場の情景が目に浮かぶようです。加えて、椎橋さんの本領である技術開発でブレークスルーを促す上でも、ご苦心があったと思いますが。
椎橋 例えば「Suica」のICチップに記録された乗車データを、通過する改札機内蔵のリーダーライターで読み取り、データを書き換える工程があります。このデータのやり取りを0.2秒以内に完了せねばならず、通信機能の精度を高めたり、データ処理を高速化したりするのに長い年月を費やしました。
また、ICカードを駆動させるには電源が必要で、1枚1枚にバッテリーを組み込めば話は早いのですが、それだと電池切れで急に使えなくなる心配がある。結局、リーダーライター側から電波で電源を供給し、バッテリー不要のカードにしたのも成功の一因といえるでしょう。
渡部 そうやってJR東日本がICカード乗車券に先鞭をつけると、その利便性が瞬く間に利用者に広まって、他の鉄道会社やバス会社なども相次いで「IC化」に追随しました。傍目には競争激化というより、むしろ共存共栄の印象が強かったのですが……。
椎橋 鉄道業界には他社線との相互乗り入れなどもあり、自然発生的な「お互いさまルール」が存在します。「Suica」導入の際も、研究開発で得た技術はすべて無償で各社に提供しました。今日、ほぼ全国の都市域にICカード乗車券の相互利用サービスが普及したことに、我々の「技術のオープン化戦略」が少なからず寄与したと自負しています。KEYWORD
- ※1電子マネー
特定の企業が提供する情報通信技術を介し、商品・サービス購入の支払い決済を行う手段のひとつ。事前チャージするものやクレジット機能付きなど様々なタイプがある。- ※2磁気式プリペイド乗車券
自動改札機に磁気カードを通して運賃精算を行う方式の乗車券。関西各社共通の「スルッとKANSAI」カードなどがある。決済機能、モバイル化でサービスの拡張性生む
渡部 今や「Suica」を1枚持てば、出張先などでの鉄道やバスの乗り継ぎもスムーズですし、ちょっとした買い物などの決済にも気軽に使えて便利です。この決済機能を付与したことで、乗車券にとどまらず、「生活インフラ」としての機動性も手に入れたのではないですか。
椎橋 おっしゃる通り、当初私が考えたのは「Suica」にクレジット機能を付けることでした。JR東日本にはすでに乗車券や定期券をキャッシュレス購入できる「ビューカード」があり、それとの一体化でより使い勝手の良いものに進化させたかった。その企てが03年に「ビュー・スイカ」に結実して、後にカードの残額不足をクレジット決済で補う「オートチャージ機能」なども追加する一方、04年からは「Suica電子マネー」のサービスに発展して、駅ナカから街ナカまで幅広いショッピングにご利用いただけるようになりました。
渡部 その後「Suica」は携帯電話とも一体化して、さらなる進化を遂げたのでしたね。
椎橋 これは「Suica」の多彩な機能を、ICカードを介さずとも携帯電話から利用できる「モバイルSuicaサービス」として06年に立ち上げました。例えば、駅の窓口へ行かなくても特急券や指定席券を予約購入でき、改札機に携帯電話をかざせば乗車できるチケットレス化を実現しています。予約の確認や変更、チャージ残高のチェックなどを携帯端末の画面で確かめながらできる安心感も「モバイル版」ならではでしょう。
渡部 今後も進化を重ねるとするなら、どんな方向を目指されるのか……差し障りのない範囲でお聞かせくださいますか。
椎橋 実は「Suicaカード」にはID番号を振ってあり、1枚1枚の利用履歴がセンターサーバーに蓄積される仕組みになっています。お客様がカードをなくされた際の利用停止や再発行に備えてのものですが、累計発行枚数が8000万にも届くとビッグデータとしての価値が出てきますので、そこから新規のサービスを探っていく道があります。むしろ昨今は、先々の進化や拡張性に限りがない、「Suica」は終わりのないプロジェクトである──との思いを強くしています。企業マインドを育てイノベーションを誘う
渡部 お話を伺ってきて思いましたのは、分割民営化を機に会社組織だけでなく人心も一新、職場の印象や空気感まで変わって、いわば新しいカルチャーが醸成されたのではないか。そして、それと軌を一にして鉄道会社の殻を破る「Suica」プロジェクトが着々と成果を収め、あたかも新生JR東日本を駆動する両輪の役割を担ってきた印象を受けました。
椎橋 的を射たご指摘だと思います。そうした組織と人が一体で醸し出すものを「企業マインド」とするなら、民営化の前と後とで完全にリセットしようとするマインドと、あくまで軸足は鉄道事業に置くべきというマインドが共存していました。そういう中で登場した「Suica」は、世界的にも類例を見ない「鉄道会社が提供する電子マネーサービス」という立ち位置を確立し、両極のマインドをバランスよく融合させたかもしれません。
渡部 その企業マインドをどうやってうまく継続・発展させていくかは、我々の会社にとっても優先度の高い経営課題です。実は、J-POWERのプロフィールにはJR各社と似通ったところが多く、電気と鉄道と分野こそ異なりますが、社会インフラの基盤となる事業者であるのは同じです。また、かつて国の特殊法人だった当社も04年に完全民営化を果たしました。ほかにもJ-POWERグループ全社員の8割方を技術職が占め、優れてテクノ・オリエンテッドな会社である点や、各事業現場を多くの有能なスタッフたちが支えている点なども、JR各社に相通じると思います。
椎橋 であれば、企業マインドの育て方にも共通項が多いでしょうね。ただJR各社は前身の経営破綻という死地をかいくぐった経験をバネに、会社再生へのモチベーションを補強できた面もあったかと思います。
渡部 私が特に注目したいのは、JR東日本の大きな推進力となった「Suica」がまだJR総研で基礎研究の段階にあった頃、作業チームの大半は若い世代の研究者だったというエピソードです。いつ陽の目を見るかわからないICカード技術の研究に、愛着と信念を傾けて没頭できる。そして小さな成果の積み重ねが、やがて会社の業態まで変えかねないほどのイノベーションに実を結ぶ。我々もぜひ見習わなければなりません。
椎橋 それはJ-POWERにも十分に起こり得ることだし、現に社内のあちこちで萌芽が始まっているかもしれませんよ。
渡部 そうですね。若い社員たちが自発的かつ主体的に考えて、中堅どころの社員が「会社の将来を占うビジネスモデルだ」と自信満々で提案してくる、どんなに小さくても挑戦し続ける、そんな企業風土の醸成をめざします。人からもの好きと言われるまでこだわる
椎橋 そのビジネスモデルに関連して、私は次世代の移動の概念である「MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)」に着目しています。これまで個別に運営・利用されていた鉄道やバス、タクシーなどの交通手段を1つのプラットフォームに統合。利用者は自分に最適な手段を選び、検索・予約・乗車・決済をスマートフォン1つで済ますという構想です。
渡部 MaaSは公共交通機関の利用を促して交通渋滞を緩和し、駐車場不足や排ガスなどの問題解決につなげるのが本来の趣旨です。都市部では鉄道駅が中核となるケースが多いでしょうから、鉄道会社にはビジネスチャンスになりますね。
椎橋 私が驚いているのは、大手自動車メーカーが、もはや自らは車を製造販売する会社ではなく、スムーズな輸送・移動サービスを提供する会社だとアピールし始めていることです。自動車ですら本体よりも付帯サービスをウリにする時代が来て、鉄道会社が古いビジネスモデルの上にあぐらをかいたままでいい道理がありません。
渡部 それは我々にも耳の痛いところです。電気事業は製品自体やマーケティングなどで差別化を図るのは難しく、電気の安定供給を通じて人々の暮らしや社会に貢献することに経営資源を集中しています。しいて独自性を挙げるなら、J-POWERグループは早くから海外進出して、東南アジアの国々などへの発電事業や技術協力に実績を重ねている点かと思います。
椎橋 JR東日本グループも海外進出に積極的です。英国で鉄道路線を運営したり、インドで高速鉄道の導入支援などをしたりしています。いずれは「Suica」技術の移植などにも手を広げていければと。
渡部 同じインフラ系の会社で、事業への志も似た者同士。いつかどこかで、がっちり協働できたらいいですね。
椎橋 お互いの長所を持ち寄ったコラボ事業を楽しみにしています。渡部 では最後に椎橋さんの豊かな経験を通じて、これからの若者たちに向けたメッセージを頂戴できますでしょうか。
椎橋 私が「Suica」をつくった際に感じたキーワードが「人」と「心」。つくるのも人、使うのも人であることを意識して、そこに心を込めなければ、いいものづくりはできないと肝に銘じました。そして、ことの帰趨を決するのが「もの好き」。なぜそこまでこだわるのか、お前はもの好きだと人から言われるぐらいになることです。
渡部 ものづくり成功のカギは「人」「心」「もの好き」の三位一体なのですね。
椎橋 そう信じます。「Suica」の研究開発では、顧客目線に徹して「これは便利だ」とお客様に言われ、自分自身も「確かに便利だ」と納得がいくまで、こだわり抜きました。
渡部 そのお言葉を社員一同しっかり心に刻み、真に社会に貢献しうる企業を目指します。
本日はありがとうございました。構成・文/内田 孝 写真/吉田 敬
ICカードの代名詞となった「Suica」。
写真提供:JR東日本メカトロニクス自動改札機では、「Suica」だけでなくスマホでも決済することができる。
写真提供:田中庸介/アフロPROFILE
椎橋 章夫(しいばし・あきお)
JR東日本メカトロニクス株式会社取締役会長。1953年、埼玉県生まれ。1976年埼玉大学理工学部卒後、日本国有鉄道入社。1987年東日本旅客鉄道株式会社入社。設備部旅客設備課長、鉄道事業本部Suicaシステム推進プロジェクト担当部長、同IT・Suica事業本部副本部長などを歴任、Suicaプロジェクトの指揮を執る。2012年JR東日本メカトロニクス株式会社入社。2019年から現職。2006年東京工業大学大学院修了、工学博士。著書に『ペンギンが空を飛んだ日』 (2013年、交通新聞社新書)など。
Suicaが世界を変える--新しい社会インフラ創造への挑戦--(2010/10/29)
『2001年11月18日。ついにその朝がやってき
た。私は前夜から田町にあるJR東日本メカト
ロニクス(株)の切替対策本部にいた。首都圏
にある424駅,3200を超える改札機をはじめ,券
売機,精算機などを含めると1万台に及ぶ機器
を一斉にSuica用に切り替え,ネットワーク化
する作業の指揮を執るためだ。
Suicaのサービス開始は始発電車の運行に間
に合わせなければならない。田町の本部には,
切り替えが終わり,正常に作動するかどうかの
チェックを済ませた駅から刻々と連絡が入って
きた。不具合の報告も入ってきているが,一つ
一つ慎重な対処が進み,切り替え作業はどうや
ら順調のようだ。
私は夜明け前の田町駅に向かった。日曜の早
朝は人もまばらだった。試しにカード発売機で
Suicaイオカードを買い,自信と不安が交錯す
る中で改札機に軽くタッチした。軽快な電子音
が鳴り,改札機の扉が開いた。うまくいってい
る。
新宿にあるJR東日本本社へ向かうため,田
町駅に滑り込んできた山手線の始発電車に乗り
込んだ。そのまま行けば新宿だが,どうしても
他の駅のSuicaが気になって次の品川駅で下り
てしまった。Suicaを改札機にタッチして改札
口を出て,またSuicaを使って改札口を通った。
そんなことを一駅ずつ繰り返してようやく新宿
に着いた。朝9時からは新宿駅の南口でSuica
のサービス開始を記念するセレモニーが行われ
る予定になっている(図1参照)。
最後の駅から報告が入り,切り替え作業がよ
うやく終わった。Suicaが動き始めた。
9時ちょうどにセレモニーは始まった。テー
プカットが行われ,社長と女優の国仲涼子さん
たちによるSuica改札機の渡り初めが始まった。
Suicaは順調に改札機の扉を開け,国仲さん
たちは改札機を通り抜けた。今でも改札機に点
灯していたリングの緑色を鮮明に覚えている。
ほっとした瞬間だった。しかし,Suicaが始ま
ってこれから世の中で果たす役割とその可能性
を考えると,私の胸は高鳴った。事実,Suica
がその日,開け放ったものは,想像をはるかに
超えたものだった。』2001年11月18日にサービスを開始したSuica
は,2007年3月には,「PASMO」と「首都圏IC
カード乗車券相互利用サービス」を開始した。
首都圏の100社を超える鉄道・バス事業者が参
画し,世界に類を見ないIC乗車券による交通ネ
ットワークが形成された。首都圏の交通機関を
シームレスに利用でき,更に電子マネー機能に
より,駅などの店舗での買い物も可能になった。
このIC乗車券によるネットワークという「巨大
インフラ」はお客さまの利便性を飛躍的に向上
させ,Suica・PASMOの総発行枚数は5000万枚
を超え,その利用も急激に増大している。今や
ICカード乗車券システムは社会生活に必要不可
欠な「社会インフラ」となっている。社会イン
フラ化したSuicaは鉄道事業の構造改革だけで
なく,お客様の生活スタイルをも革新し,現在
も進化を続けている。
本稿ではSuicaを「イノベーション(Innovation:
革新)」という観点で捉え,導入の背景,導入
の意義,今後の展望などを時系列的に過去から
現在,未来について考察し,「IC乗車券Suica」
の本質を明らかにしたい。
「国鉄改革(1987年)」から既に24年経過し,
若い人にはその内容や意義を知らない人も多く
なっている。国鉄改革の詳細な説明はここでは
省略するが,要約すれば「日本国有鉄道(国鉄)
の巨額の債務を解消するため,当時の国鉄を6
つの地域別の旅客鉄道株式会社(JR東日本・
JR東海・JR西日本・JR北海道・JR四国・JR九
州)と1つの貨物鉄道会社(JR貨物)などに
分割し,民営化した」ものである。国鉄改革と
は財政改革(巨額債務の解消)と組織改革(公
社から株式会社へ)がある。特に組織について
は「国鉄のコア構造」を変革した。コア部分の
変革には多大なエネルギーが必要だが,その結
果,大きな変化(革新)が新会社に生まれた
(図2参照)。
私から見た国鉄改革は強烈な「意識改革」で
あった。これまでの価値観が180度変わった。
当時,「目からウロコが落ちる」程,新鮮に感
じたことに「利益=収入-経費」という式があ
る。民間企業では当たり前であるが,公社時代
は思いもよらなかった。企業活動の継続には利
益が必要であり,そのためには収入の増加と経
費の削減に取り組むことが重要であることを,
身を持って痛感した。また,公社時代は一人称
(私や私達)で始まる言葉が無かった。新会社
では自立と自律の精神で「私(私達)が変われ
ば会社が変わる」という言葉を教えられた。当
時は新しいことに失敗を恐れずに取り組んで行
こうというエネルギーが満ち溢れ,新しい会社
創りが進められていた。
「国鉄の分割・民営化」という大きなイノベ
ーションを背景にSuicaは誕生したと思う。
鉄道事業のビジネスモデルは,A地点からB
地点へお客さまを運び,対価をいただくもので
あり,139年前の鉄道開業(1872年)以来,基
本的に変わっていない。切符(乗車券)は対価
の証票にすぎなかった。
しかし,「IC乗車券の導入」は,コア事業で
ある鉄道事業の「改札」という100年来,同じ
作業を行っていた1つの業務プロセスを改革し
た。その結果が思わぬ方向へと発展した。乗車
券をIC化したことにより,記憶容量が増加し,
「乗車券」機能の他にも多くの機能が付加され,
しかもセキュリティも高くなった(図3参照)。
例えば,「電子バリュー」機能は決済ビジネ
スに活用し,電子マネー事業が展開可能になっ
た。さらに,「個別認証」機能により,個人の
いろいろな情報がセキュアに蓄積可能となり,
ビルの入退館管理システムやマンションキーに
も利用されている。また,ポイント等のマーケ
ティングへの活用も可能である。媒体そのもの
についても自由度が広い。記憶容量が大きいこ
とから,クレジットカードと一体化したSuica
付ビューカードのように,他の媒体とSuicaを
一体化した新しい媒体による新しいサービスの
提供が可能である。更に媒体はカード形状だけ
ではなく,モバイルSuicaのように携帯電話と
一体化することも可能である。
このように,乗車券のIC化は,各種の機能付
加とその機能同士の組み合わせによって,更に
新たなビジネスの創出が可能であり,ビジネス
全体に革新(拡張性)をもたらしたといえる。
Suicaのイノベーションは鉄道事業の中の「改
札」という,たった一つのプロセスの革新であ
ったが,その影響は,事業構造や社会生活全体
にまで大きな変革を起こしている。
「通信」と「移動」は非常に相性が良い。1876年
3月にグラハム・ベルが電話の実験で,最初に
話した言葉は,「ワトソン君,こちらへ来てく
れたまえ。君が必要なのだ」である。通信が人
の移動を促した最初の事例である。通信の発達
は,人が会おうとする動機をより強くし,その
結果,人の移動(交通)が頻繁になる。「通信
と交通とが人のリレーションシップを強化」し
ているのである。
移動を表す言葉として「move」,持ち運び可
能な通信端末を表す言葉として「mobile」が使
われている。モバイルSuicaは「move」という
交通系IC乗車券のSuicaの機能と,「mobile」と
いう携帯電話の2つの機能を有しており,正に
「交通」と「通信」が融合した実例である。
モバイルSuicaは,2006年1月にサービスを
開始した。2008年3月からは,「モバイルSuica
特急券サービス」を開始し,新幹線(東北・上
越・長野・山形・秋田)をチケットレスで利用
できるようになった。更に,JR東海のエクス
プレスICサービスとの連携により,東海道新幹
線もモバイルSuicaで利用可能になった。モバ
イルSuicaは,「交通」と「通信」の相性の良さ
を最大限活かしたサービスである(図4参照)。
モバイルSuicaのもう1つの特徴は「出札」
プロセスに革新をもたらしたことである。「乗
車券の購入」や「指定席券の購入」が「いつで
も,どこでも」可能になり,通信機能との連携
により,これまでにない業務革新が起きている。
モバイルSuicaでは,駅の窓口まで足を運んで
いただくことなく,携帯電話の操作により,チ
ャージや定期券購入,新幹線きっぷの購入など
ができる。今後,モバイルSuicaがさらに普及す
ると,駅の窓口業務にも変革をもたらすだろう。
私はSuicaが「改札」業務に革新をもたらし
たと思っていたが,実は「出札」業務にもイノ
ベーションの連鎖が及んでいたのだ。新たなイ
ノベーションが次のイノベーションを起こし,
連鎖的に次々に広がっていく。「交通」と「通
信」との融合はSuicaイノベーションの連鎖に
よる未来形であり,今後さらなるイノベーショ
ンが生まれる可能性を示唆している。
(1) 第3の柱:Suica事業の展開
Suica事業の展開はJR東日本が策定した「グ
ループ経営ビジョン2020-挑む-」に基づき推
進している。このグループ経営ビジョンにおい
ては,「Suica事業を鉄道事業,生活サービス事
業と並ぶ第3の柱として確立する」ことを掲げ
ており,以下の3つの方向性を打ち出している。
第1は,「Suicaを鉄道ネットワークにあまね
く広げる」ことである。Suicaの利便性を多く
のお客様が享受可能とし,その結果,鉄道利用
の向上やオペレーションコストの低減を図るも
のである。具体的には相互利用のネットワーク
を全国に拡大すること。また,2010年度に首都
圏エリアでのSuica・PASMO等のIC乗車券利用
率を90%以上とすること。そして2020年までに
は,当社エリア内ではどこでもSuicaを利用可
能にすること(Suica利用可能エリア100%化)
などに取り組んでいるところである。
第2は,「SuicaをNo.1電子マネーに引き上
げ,グループ利益に貢献する事業に育て上げる」
ことである。具体的にはSuica電子マネーを全
国に浸透させるべく,IC乗車券と同様に電子マ
ネーの相互利用ネットワークを拡大することで
ある。Suicaと他の電子マネーを使用可能とす
る共用端末インフラの普及をリードし,電子マ
ネー決済になじむコンビニエンスストアや飲料
用の自動販売機などをはじめとする多くの提携
先や加盟店の拡大に取り組んでいる。
第3は,「Suicaの情報をベースにした新しい
ビジネスに挑戦し,Suica事業を総合的なIT事
業へとステップアップさせる」ことである。
「情報ビジネス」と呼んでいるこの施策は,
Suicaの利用を通じて蓄積される小額決済の消
費行動をデータ化し,顧客属性ごとの消費パタ
ーン等をマーケティングデータとして活用する
ものである。Suica事業から生まれる「情報」
を自社・グループ会社(In B),他企業(To B),
お客様(To C)などで活用するビジネスに取
り組んでいる(B:Business,C:Customer)
(図5参照)。
(2) 情報ビジネスの展開
Suicaが持つ情報の特徴は3つある。1つは
1日で2000万件を超える強大な情報データベー
スである。2つ目はこの強大な情報が,移動情
報・決済情報・買い回り情報などの「ライフ・
ログ」と呼ばれる,お客様の生活・行動情報で
あることである。3つ目は更にそれら情報の1
件1件が個々のカード(利用者)別に管理がな
されていることである。
Suica情報のデータベース・プラットフォー
ムを構築し,Suica情報の特徴を生かして,こ
れまでにないような新たなCRM(Customer
Relationship Management)を展開したいと思
っている。現在,社内に「情報ビジネス」を推
進するチームを設置し,情報の価値を視覚で理
解しやすいように「見える化=情報資産化」し
その活用を検討中である。特に「In B」での活
用を先行して進めている。これまで述べてきたようにSuicaは導入当初
は「高度な技術レベルの自社インフラ」であっ
た。その後,電子マネー,モバイルSuica,相
互利用など外に向かって他のインフラとの連携
により拡大を続けてきた。今やSuicaは国民生
活に必要不可欠な「オープンな巨大インフラ」
となった。
新しい社会インフラの誕生である。鉄道を
「社会基盤としての第1次インフラ」と定義す
れば,Suicaは「生活基盤としての第2次イン
フラ」と定義できる。今後は第1次インフラと
第2次インフラの共生とシステムの安定稼動確
保が重要である。この巨大インフラを安定的に
稼動し,サービスを継続的に提供する取組につ
いて,より高いレベルへ昇華する必要があると
考えている。これまでも,Suicaシステムの信
頼性とセキュリティレベルの向上に向けて,社
内にシステムの信頼性とセキュリティを専任で
担当する「セキュリティマネジャー」を設置し
て,システムの根本からのレビュー,標準化,
技術管理などを推進し,継続的に取り組んでき
た。
Suicaをベースにした交通IC乗車券の全国相
互利用により,当社はそれを支える企業として,
社会的に重い責任を負うものと考えている。こ
のため,システムの信頼性とセキュリティレベ
ルの向上に対しては,妥協することなく取り組
んでいくが,「IC乗車券相互利用インフラ」の
安定稼動確保については当社1社だけでは完結
せず,社会と連携してサステナブルなインフラ
管理の新しい仕組みを構築すべきであると考え
ている。
(2) Suicaがもたらすイノベーションの連鎖
Suicaは「鉄道事業」だけでなく「お客様の
生活スタイル」をも変革した。Suicaがもたら
すイノベーションは連鎖して,次々にまた新し
いイノベーションを起こしている。このような
Suicaインフラの特徴を鉄道・電気・ガスなど
の社会基盤インフラとしての「第1次インフラ」
と比較して少し詳しく定義してみる。
第1次インフラは生きるために必要なインフ
ラとして,供給者の視点で,不特定多数のユー
ザに,単機能のサービスを提供するインフラと
定義できる。第2次インフラは生活の質(豊か
さ)の向上を目的とし,特定のコミュニティの
ユーザを対象とし,ユーザの視点で,統合的な
サービスを提供する(新しい)インフラと定義
できる。人々は常に生活の質的向上を求めてお
り,今後,「第2次インフラ」による生活革新
が急速に進展していくものと思う。
Suicaを「イノベーション(Innovation:革新)」
という観点で述べてきた。日本の鉄道は,これ
まで世界を2度変えたと言われている。1度目
は新幹線(高速鉄道)である。日本の新幹線に
倣って,世界中に高速鉄道網が登場した。2度
目は民営化である。日本での民営化の成功によ
り,世界中で鉄道事業の構造改革が起きている。
そして,3度目は「Suicaが世界を変える」。
晴れてそう呼ばれる日まで,今後ともSuicaの
チャレンジは続いていくだろう。
私は「Suicaという巨大システム」の「もの
づくり」に取り組んできた。この「ものづくり」
を通じて感じているキーワードが3つある。
「人」,「心」,「物好き」である。
「人」:ものづくりは突き詰めると最後は人と
人の繋がりであると思う。システムを開発する
のも,そのシステムを使うのも人である。多く
の人の視点でものを見ることが大切である。会
社では上司,部下,お客様など,学校なら先生,
生徒,両親,地域の皆様,行政関係者などであ
ろう。組織の中の私の位置付けを意識し,全体
にとって最適な解を常に考えて,取り組むこと
が大切である。
「心」:ものづくりには大きな志や夢が必要で
ある。大きな夢は大きな目標になり,実現には
チャレンジ精神が必要となる。世の中の進歩や
発展には「挑戦」が必要であるが,失敗に終わ
る場合の方が多い。しかし,失敗を恐れると何
も出来なくなる。「最近の若者は夢が無い」な
どとよく耳にする。若者の夢やチャレンジ精神
は「好奇心」と言う形で現れると思う。私は
「好奇心」を大切に育てるように心がけている。
「物好き」:同じ能力の人が同じ環境で,もの
づくりに取り組み,一方は成功し,他方は失敗
したとする。この差は,私はものづくりに対す
る拘りや執念,諦めない(不屈の)精神などで
あると思う。適切な言葉が見当たらないが,あ
えて困難に挑戦する人を世間では,「物好き」
と言う。私は「物好き」でないとものづくりは
成功しないと思う(図6参照)。
今朝も多くの人が通勤・通学などにSuicaを
利用している。「ピッ」という軽快な音と共に
多くの人が流れていく。駅のコンビニでは買い
物の支払にSuicaをかざしている。人々の生活
の一部として自然に溶け込んでいるSuica。社
会インフラ化したSuicaは人々の生活スタイル
を革新し,鉄道事業にも革新を引き起こした。
○エピローグ 「3つの覚悟」
そして,Suicaと出会ったことで私の人生も変
わった。
私はSuicaプロジェクトにより,多くのこと
を学んだ。このプロジェクトを推進するに当た
り,いつも心がけていたことがある。それは
「お客さまに便利なものを創ろう!」と言うこ
とである。お客さまに良いものは,必ず会社に
も良いものである。そして欲を言えば,社会に
も貢献するものを創ろう,と思って取り組んで
きた。
Suicaプロジェクトを成功に導いたのは「IC
カードシステムを絶対に実用化するんだ。」と
いう技術者たちの夢と信念と最後は意地があっ
た。だからこそ,結果として成功したと思う。
私は講演で校長先生の皆様に「3つの覚悟」
を持つようにお願いした。1つは「教える覚悟」
である。「教える」とは生徒が物事を理解し,
考え,行動して,初めて教えたと言える。2つ
目は「育てる覚悟」である。「育てる」とは学
びの中のコミュニケーションを通じて,生徒自
身の行動が変わっていくことと思う。3つ目は
「公開する覚悟」である。学校も社会も同じで
あり,社会に特別な領域は存在しない。社会の
一部である学校を誰にでも「見える化=情報公
開」すれば,自ずと社会から最適な解(Solution)
が得られるはずである。校長先生は会社で言え
ば社長である。だからこそ,経営(学校の運営)
に覚悟を持って取り組んでもらいたい。
また,私が生徒諸君に望むのは「好奇心」を
持つことである。チャレンジ精神は「好奇心」
から生まれる。「好奇心」旺盛な人は会社でも
成長が早い。勉強(知識)だけでなく,社会に
必要な人材に育ってほしい。先生方は生徒の
「好奇心」を大切に育てて欲しいと願う。
「Suicaが世界を変える?」いや,Suicaはツー
ル(Tool)である。道具を生かすも殺すも「人」
である。本当は「あなたが世界を変える!」の
である。
JR東日本はなぜ、ITインフラ・サービスへの投資に熱心なのか(2008/1/7)
2007年は、Suicaにとってビッグニュースが相次いだ年だった。
3月18日のSuica/PASMO相互利用開始(参照記事)を皮切りに、首都圏のIC乗車券/電子マネー利用が急拡大。PASMOは一気に認知され、Suicaの利用率向上にも繋がった。昨年後半には、JR東海の「TOICA」との相互利用や、JR西日本の「ICOCA」、JR北海道の「Kitaca」とのIC乗車券・電子マネーの相互利用に向けた発表が行われ(参照記事)、「モバイルSuica特急券」の概要も明らかにされた。年末には全日本空輸(ANA)と包括提携し(参照記事)、“鉄道と航空の異業種連携”でも大きな一歩を踏み出した。
そして年が明け、2008年。JR東日本は「Suica/モバイルSuica」を、どのように進化・発展させるのか。
今回は新春特別インタビューとして、東日本旅客鉄道(JR東日本)常務取締役IT・Suica事業本部長鉄道事業本部副本部長の小縣方樹(おがたまさき)氏に、Suicaの拡大と2008年の展望について話を聞いた。
Suica×PASMO相互利用の効果は想像以上だった
東日本旅客鉄道 常務取締役 IT・Suica事業本部長 鉄道事業本部副本部長の小縣方樹氏 2007年を振り返ると、Suicaを取り巻く環境変化の中でも、最も大きなトピックといえるのがSuica/PASMOの相互利用開始だろう(参照記事)。この実現により首都圏の公共交通の利用は劇的にスムーズになり、電子マネーの認知度も向上した。
Suica/PASMO相互利用の効果は、数字にも表れている。
「Suicaの発行枚数で見ると、昨年末時点で約2300万枚を突破し、PASMOと合わせれば3000万枚の規模になっています。モバイルSuicaの利用者増にも拍車がかかり、約75万人に達しました。PASMOとの相互利用開始による好影響は大きいだろうと予想していましたが、(実際にスタートした結果は)想像以上の効果がありましたね」(小縣氏)
さらに相互利用の開始で変化したのが、Suicaの利用状況だ。Suicaチャージや電子マネーの利用件数は相互利用開始前のほぼ倍になっており、Suicaシステムのトランザクション(処理回数)※は、約800万から約1600万に急増したという。
※Suica/PASMOのトランザクションには、定期券の区間内利用数は含まれない。公表されたトランザクションは、すべて定期券を除くIC乗車券として利用したもの、あるいは電子マネーとして利用したものの回数を指す。「トランザクションを始め、多くの数字が倍増しているということは、(Suica/PASMOの)相互利用がお客様の利便性を向上していることの証左ですし、Suicaの稼働率向上という経営的な視点でも大きな効果が得られたことの証になっています。
これは当たり前のことなのですが、交通系のICカード/電子マネーにおいて、(他事業者との相互利用で)シームレス化することは利用の底上げになります。今年はPASMOとの相互利用で『3線連絡定期券』にも対応しますので(参照記事)、Suicaはさらに使いやすいものになり、利用の拡大に繋がるでしょう」(小縣氏)
さらにSuica/PASMO利用エリアの拡大は、Suica電子マネーの普及・利用促進にとっても“追い風”だ。相互利用開始以降、Suica電子マネーが使える加盟店は順調に増えている。
Suica × ANAで、「陸と空」をつなぐ
昨年、Suica関連で大きく注目されたニュースは2つある。
1つは先述のSuica/PASMO相互利用開始であり、もう1つが全日空(ANA)との包括提携だ。後者はSuicaのポイントや提携カードの発行はもとより、営業面での提携まで含んだ包括的なものだ。
→“ANA=Edy”ではない――全日空に聞く「JR東と組んだ理由」 (参照記事)
「ANAとの提携はかなり戦略的なもので、『陸(鉄道)と空(航空)』で連携を深めることが大きな狙いになります。ですから提携の内容は包括的なものですし、将来的には連携領域をさらに広げていく考えを持っています」(小縣氏)
今回の提携内容は広範に及ぶが、その根幹にあるのは「Suicaのネットワークを広げる」という部分だ。1枚にSuicaとSKiP両方の機能を持ち、“1枚で鉄道・バスから飛行機まで乗れる”「ANA Suicaカード」は、その象徴的な存在と言える。
「交通系(FeliCaサービス)の基本は、相互利用によって『移動』の利便性や付加価値を向上するところにあります。
ANAは以前からマイレージや会員サービスの分野で(FeliCa)電子マネーの活用に取り組んでいましたし、航空事業においては電子チケットの『SKiPサービス』移行を積極的に行っていました。SuicaがANAと連携することで、交通分野を軸に様々なメリットが両者にもたらされます。特にANA Suica カードが登場する今秋には、Suica相互利用エリアが本州の主要都市に広がっていますから、空と陸の両方を1枚で使えるカードになる。ANAの(国内線)ネットワークと相まって、(交通分野の利便性が高い)パワーカードになると思っています」(小縣氏)
一方、ポイント・マイル分野の連携では、今年2月からANAのマイルとの連携が始まる。JR東日本には昨年6月に始まった「Suicaポイント」(参照記事)、VIEWカードのポイントプログラムである「ビューサンクスポイント」など複数のポイントプログラムがあるが、連携するのはSuicaポイントのみだ。その理由について小縣氏は、「システム統合のしやすさと、将来的な発展性を考えての判断」だと話す。
「Suicaポイントは『モバイルSuica』と『VIEWカード』のどちらの会員でも登録可能になっています。また、将来的な構想ではありますが、記名式Suica (My Suica)へのSuicaポイントプログラムの拡大も検討中です。これらの点を踏まえますと、(クレジットカード入会が前提になる)ビューサンクスポイントよりもSuicaポイントの方が、今後、幅広いお客様にご利用いただけるポイントになるでしょう」(小縣氏)
もちろん、Suicaポイント以外のポイントプログラムがなくなるわけではない。Suicaポイントを多くのSuicaユーザー向けに展開していく一方で、ビューサンクスポイントやえきねっとポイントなど他のポイントは、同社のロイヤルカスタマー向けのものとして併存していく。Suicaというプラットフォームを幅広く覆うのがSuicaポイント、というイメージである。
「ANAのマイルには多くのユーザーがいますし、(ポイント・マイルの世界で)広く普及している。ANAマイルがSuicaポイントに交換できるようになることは、Suicaの利便性向上になりますし、(ANAマイルとSuicaポイント)双方の価値を拡大してくれるでしょう」(小縣氏)
Web予約の推進で窓口自動化を推進する
一方、Suica以外のサービスに目を向けてみると、JR東日本はインターネットを使った乗車券・旅行商品販売のポータルサイト「えきねっと」の利用拡大にも力を入れている。同サイトの登録会員数は約244万人、1日あたりの取り扱い予約席数の平均は約1万5000席で(ともに2007年11月末時点)、利用数は順調に増えているという。さらに「えきねっと」は、ANAとの包括提携において「ANA@desk」とのサービス連携が決まっており、サービス内容の拡大にも力を入れる。
「モバイルSuicaやえきねっとなど、“Webからの予約・購入”は極めて重要な分野と位置づけています。究極的には、旅のご相談窓口など一部のサービスカウンターを除けば、ほぼすべての予約取り扱い窓口を(モバイルSuicaやWeb予約などを活用して)自動化したい」(小縣氏)
この取り組みは、都内主要駅ではすでに始まっている。昨年4月から展開が始まった「びゅうプラザ」では、従来の「旅行カウンター」と「みどりの窓口」が一体になり、えきねっとと連携した指定席券売機「MV-30」を大量導入しているのだ。昨年12月段階でびゅうプラザは首都圏の主要駅を中心に、134店舗まで展開している。小縣氏は自らびゅうプラザの状況を視察に行き、その時には必ず駅長に、MV-30の利用率が増えているかどうかを尋ねているという。
Web予約の利用促進は「びゅうプラザ」の展開というハードウェア整備だけにとどまらない。えきねっとでは「えきねっとポイント」というポイントプログラムを導入しているほか、インターネット予約限定の割引キャンペーンを用意するなど、料金サービスの面での取り組みも行っている。今年3月から始まるモバイルSuica特急券の割引料金も、Web予約の利用促進策の1つだ。
Suica導入で、近距離収入が年間35億円程度増収と試算
2001年のSuica開始以降、JR東日本はIT投資を積極的に行い、鉄道と駅の姿を大きく変えてきた。なぜJR東日本は、Suicaを始めとするITインフラ・サービスの投資に積極的なのだろうか。
「鉄道会社のビジネスモデルは古く、1872年に誕生した鉄道事業を第1の事業としています。その後、(1907年に設立された箕面有馬電気軌道 : 現在の阪急電鉄の創業者である)小林一三氏が考案した沿線開発・生活サービス事業を展開する第2の事業モデルが作られました。鉄道会社の基礎となるビジネスモデルは100年前に作られたのです。
そして今、“第3の事業”になったのが、(Suicaを代表とする)IC乗車券と電子マネーです。これは当初、鉄道事業のコストセンターである『改札』というプロセスを改革するものでしたが、利用率が増加するとともに鉄道事業のコスト構造や収益モデルが激変し、さらに電子マネーとして(第2の事業である)生活サービス事業の構造も変化させてきました。仮に(駅・沿線ビジネスにおける)Suicaの利用率が100%に達したら、鉄道会社のビジネスに質と構造の大変化をもたらすでしょう。(第3の事業である)Suicaは、鉄道会社のビジネス全体を大きく変える要素になってきたのです」(小縣氏)
変化の手応えは、すでに現れ始めている。JR東日本では、Suica導入による近距離収入の増収額は年間35億円程度と試算しており、「まだ集計中ですが、PASMOとの相互利用開始による近距離輸送収入の伸びは大きい」(小縣氏)という。駅におけるSuica利用率の向上は大幅なコスト削減効果をもたらし、駅スペースのテナント利用や電子マネーによる周辺領域での収益増の効果も大きい。SuicaをはじめとするITインフラ・サービスへの投資と利用促進は、JR東日本が21世紀型の新たな鉄道会社になるためのものなのだ。
「1日に1つのプロジェクトを完成させるくらいの勢いでないとダメだ」
2001年のサービス開始から7年。Suicaのネットワークは広がり、サービスは大きく進化した。しかし小縣氏は、Suicaの進化はまだまだ手綱を緩める段階ではないと強調する。
「2007年は確かにエポックメイキングな年になりましたが、これで一段落ではありません。これは部下にいつも言っているのですけれど、IT・Suica事業は『1日に1つのプロジェクトを完成させるくらいの勢いでないとダメだ』と思っています。毎日アイディアを出し続けて、常に技術革新をしていかないといけない。世の中にあるすべての先進技術を貪欲に吸収し、新しいビジネスモデルを考える。首都圏のお客様に(世界的に見ても)最も先進的で、最良のサービスを提供し続けていかなければなりません」(小縣氏)
JR東日本はFeliCaを用いたIC乗車券と電子マネーの“育ての親”であり、この分野のトップランナーであったが、「2008年は、さらに技術革新のスピードを加速していく」と小縣氏は話す。「(今年は)エリア展開としてまず、Suica/ICOCA/TOICAの相互利用開始があり、東名阪のIC乗車券利用がスムーズになります。ICOCAとは電子マネーの相互利用も始まる(参照記事)。これにより、それぞれのエリアで利用率の底上げができるでしょう」
トヨタファイナンスのQUICPay普及に向けた姿勢に共感した
電子マネー分野では、首都圏での加盟店拡大、Suicaポイントも合わせた利用促進を実施する一方で、提携による利用エリアの拡大も図る。ここで重要なパートナーになるのが、トヨタファイナンスである。
→「共通の敵は現金」――JR東とトヨタファイナンスが提携した理由 (参照記事)
「トヨタファイナンスとは昨年11月に提携させていただきましたが、彼らのQUICPay普及に向けた姿勢には共感しています。トヨタファイナンスとは『クルマ』と『鉄道』という視点で手を組み、QUICPay/Suicaの利用拡大に取り組んでいきます。特にロードサイド加盟店とタクシーの開拓で協力しあっていくことになるでしょう」(小縣氏)
首都圏と名古屋圏はビジネスで多くの人が行き来しており、Suica/QUICPayの提携でレールサイドとロードサイドが結びつく利便性向上効果は大きい。中でも「タクシーへの(Suica/QUICPay)共用端末整備は、利用拡大に大きな効果がある」(小縣氏)と見る。
モバイルSuicaは“オトクで便利”を訴求する
さらに2008年の重要項目の1つになるのが、「モバイルSuica」の普及と利用促進だ。
「モバイルSuicaには今年『モバイルSuica特急券』と『エクスプレス予約ICサービス』が導入されますので、お得さや利便性が今までよりも向上します。新幹線をよく使う利用者層のモバイルSuica利用率は、特に伸ばしていきたい」(小縣氏)
モバイルSuica特急券とエクスプレス予約ICサービスの実施は、ともに今年3月からだが(参照記事)、いつサービスが始まるのかという問い合わせが、すでにコールセンターに多く来ているという。「モバイルSuica特急券は新幹線の料金をかなり安く設定していますから、お客様の期待感も『モバイルSuicaは安くなる』ところに集中していますね。ですから、この部分はしっかりと訴求し、今後も伸ばしていこうと思います」(小縣氏)
モバイルSuicaを使うと料金面で優遇されるケースは、これまでもなかったわけではない。だが、それらは“グリーン券が車内でも事前購入価格で買える”など、一般ユーザーがお得さを実感するには“分かりにくい”ものだったのも事実だろう。しかしモバイルSuica特急券は、例えば東北新幹線では“平均9%割安になる”とお得さがはっきりと打ち出されており、「モバイルSuicaのお得さが、お客様の目にどのように映るか。どれだけ(利用者数増加という)数字につながるかは、今から楽しみな部分」(小縣氏)だという。
「Suicaは導入開始から7年が経ちましたが、サービス内容には、さらに磨きをかけていきたい。また、昨年を振り返りますと、セキュリティや信頼性の面でご心配をおかけすることもありましたので(参照記事)、安心・安全面での対策や機能強化を徹底的に行います」(小縣氏)
JR東日本は、IC乗車券・電子マネー分野だけでなく、公共交通の在り方や鉄道ビジネスの変革という点でも、注目すべき取り組みを数多く実施している。ITによるイノベーションが、都市と交通、そしてリアル経済をどのように変えていくのか。2008年も、SuicaとJR東日本の挑戦に注目である。
神尾 寿の新ビジネス・モデル研究(4):Suica/PASMOで拡大・活性化するレールサイド・ビジネス(2007/3/28)
本連載では、通信・ITS分野の気鋭ジャーナリスト神尾 寿が、標準技術によって結実した新しいビジネス・モデルを分析していく。第4回目は、SuicaやPASMOなど、非接触IC技術「FeliCa」を用いたIC乗車券システムの拡大によって、変わりゆくレールサイド・ビジネスを取り上げる。
拡大を続けるIC乗車券システム
2007年3月18日、首都圏の私鉄・地下鉄やバスで利用できる共通IC交通乗車券「PASMO」のサービスが始まった。PASMOはソニーの非接触IC技術「FeliCa」を用いたプリペイド(前払い)型IC乗車券システムのひとつで、基本的な仕組みはこの分野の先達であるJR東日本の「Suica」と同じである。私鉄・地下鉄・バスなど公共交通のIC乗車券として利用できるほか、事前にチャージ(入金)したお金を決済で使うプリペイド式の電子マネー機能を備えている。
さらに今回のPASMO開始では、当初から先行するSuicaとの相互利用機能が盛り込まれた。Suicaで私鉄・地下鉄・バスに乗ったり、PASMOでJR東日本の電車に乗ることができる。電子マネーも同様に、Suica電子マネー加盟店でPASMOを使う、逆にPASMO電子マネー加盟店でSuicaを使うこともできる。相互利用はカード型のSuicaやPASMOだけでなく、おサイフケータイ向けの「モバイルSuica」でも可能である。
現在、JR東日本のSuicaはカード型と、おサイフケータイ向けのモバイルSuicaをあわせて1900万枚以上が発行されている。PASMOはこれから始まるサービスだが、PASMO協議会では今後3年間で800万枚以上の発行を見込んでいるという。Suica/PASMO相互利用開始で、これまで不可能だったJR/私鉄の連絡定期券の利用が可能になり、Suica/PASMOともに発行枚数が伸びていくのは間違いない。今後数年で、首都圏在住者の大半がSuica/PASMOのいずれかを所有し、キャッシュレスで公共交通に乗り、駅周辺で買い物をすることになるだろう。
Suica/PASMOのビジネス的な狙い
Suica/PASMOのIC乗車券でカバーする駅数は首都圏だけで1683駅。さらに電子マネーの相互利用では、Suica加盟店が約1万1千店舗、PASMOが約700店舗にのぼる。Suica/PASMOの相互利用における総事業費は1400億円を超えたという。これだけ高度かつ先進の公共交通システムは、世界的に見ても類がないだろう。
ではなぜ、JR東日本と私鉄・地下鉄・バス各社局がこれだけの投資を行ったのだろうか。ビジネス的な狙いは大きくふたつある。
ひとつは公共交通事業における改札効率の向上とコスト削減だ。従来の磁気式自動改札機は紙詰まりなどのトラブルが起きやすく、「新宿駅や渋谷駅ぐらいの規模になると改札機故障が絶えない」(鉄道会社幹部)という問題があった。自動改札機がトラブルを起こせば、その改札口の乗客通過速度が低下し、一方で保守要員派遣のコストが発生する。非接触ICを使うSuicaやPASMOならば、読み取りスピードが速い上に、切符や磁気カードのように可動部がないので紙詰まりなどのトラブルがない。
また中長期的に見ると、Suica/PASMOの券売や改札処理の効率化は、「駅スペースの節約」という点でもメリットがある。
首都圏では「都心回帰」や「経済の一極集中」の影響もあり、2015年まで人口増加が続くが、それにあわせて駅設備の拡大をするのは難しい。また、鉄道会社のビジネスからすれば、駅内スペースを商業施設化してテナントを集めた方が収益拡大につながる。Suica/PASMOで駅スペースの効率化をすることで、利用客の増加への対応と商業施設の拡大の両方が図れるのだ。これらがIC乗車券システムとしての、Suica/PASMOのビジネス的な狙いになる。
一方、ふたつめの狙いになるのが、Suica/PASMOの電子マネー・プラットフォームによるビジネス領域の拡大だ。
JR東日本と大手私鉄各社がこの分野で最も力を入れているのが、自社のクレジットカードビジネスとSuica/PASMOの連携である。JR東日本や私鉄各社が発行するハウスカードは、それぞれSuica/PASMOと紐づけることで、自動改札機でカード残額が足りないと自動的に入金する「オートチャージ機能」を持っている。それぞれ独自のポイントサービスや、他事業者とのポイント/マイル交換の機能も用意しており、自社クレジットカードの会員増加と稼働率の拡大を狙う。
とくに稼働率向上への期待は大きい。クレジットカード業界に目を転じてみると、消費者のクレジットカード平均保有枚数は3.3枚、平均携行枚数は2.0枚で、発行・携行枚数ともに伸びが鈍化しているのが現状だ。一方で、消費者が一番よく使う”メーンカード”では、利用頻度と利用金額が伸びており、「一番よく使うカードへの利用の集約傾向が見られる」(JCB)という。日本ではリボルビング決済の利用率が低く、キャッシングにおいても上限金利の引き下げなど、クレジットカード会社の金利収入増大の見通しは明るくない。となると、今後のクレジットカード事業で重要なのは消費者のメーンカードになり、生活全般の決済で幅広く使ってもらい、加盟店からの手数料収入で「広く薄く」儲けていくことだ。鉄道各社がSuica/PASMOにおいて「自社発行カードからのオートチャージ」を推進する背景には、交通という消費者に身近な領域から稼働率をあげて、自社カードのメーンカード化を狙うという背景がある。